歴史再発見

多賀大社奥書院庭園・犬上郡多賀町

多賀大社奥書院庭園・犬上郡多賀町

基本情報
名称 多賀大社奥書院庭園
URL http://www.tagataisya.or.jp/
文化財指定等 国指定名勝
所在地 犬上郡多賀町多賀604(多賀大社境内)
電話番号 0749-48-1101(多賀大社)
拝観時間 9時~16時
定休日等
料金 300円(団体10名以上250円)
※平成22年10月現在

~金箔の襖絵を背に眺める贅沢な庭風景~

バランスよく配置された自然石が観るものの心を捉える。右手前に石橋があり、その奥の築山の裏側に太田川の清らかな水が流れる。

バランスよく配置された自然石が観るものの心を捉える。右手前に石橋があり、その奥の築山の裏側に太田川の清らかな水が流れる。

 犬上郡多賀町にある多賀大社は、古くから「お多賀さん」の呼び名で親しまれてきた由緒ある神社。鎮守の森の深い木立に包まれた広大な神社の境内には、国の名勝にも指定されている美しい庭、奥書院庭園がある。
 天照大神の親神、伊邪那岐大神(いざなぎのおおかみ)と伊邪那美大神(いざなみのおおかみ)を祀る多賀大社は、延命長寿、縁結びにご利益があるとして、近畿地方はもとより、全国各地から大勢の参拝者が訪れる。だが、多くの人は、境内にある素晴らしい庭園を観ることなく多賀大社を後にする。一般公開されている庭なのだが、奥まったところにあるため、事前の下調べなどをしないかぎり気づきにくいようだ。
 本殿に向かって左奥、参集殿というコンクリート造の大きな建物の奥裏に、その名庭はひっそりとたたずむ。この庭は、安土桃山時代に作庭された池泉観賞式の庭園で、奥書院と呼ばれる書院造りの建物から眺められるようにつくられている。書院の廊下から見下ろすような庭は全国的にも希で、西日本では唯一ともいわれる。

襖絵には珍しい三羽ガラスの図柄。不吉とされるカラスだが、多賀大社ではカラスは神の使いで信仰の対象だった。

襖絵には珍しい三羽ガラスの図柄。不吉とされるカラスだが、多賀大社ではカラスは神の使いで信仰の対象だった。

 大きな木々に抱かれた庭園は、築山をはじめ、大小さまざまな自然石が見事に配され、美しい曲線で表された石組み護岸の池に鶴島、亀島が浮かぶ。小ぢんまりとした庭ながら芸の細かい繊細な表情を見せている山水庭園だ。庭園の中央に不動三尊石が、右隅には枯滝が、そしてその下には自然石の石橋が渡されている。このような庭の構成だけでも国の名勝というにふさわしく十分に素晴らしいのだが、さらにアクセントとなっているのは、境内を貫く太田川のせせらぎが庭に沿って流れる風情ある光景だ。このような自然美を誇る庭は、名庭が多いといわれる滋賀県内にあっても、なかなかお目にかかることはできないだろう。そのほか、書院東側に続く庭にも味わい深い形の石がいくつか配されており、鮮やかな苔の緑との対照が麗しい。
 心奪われるほどに美しい庭だが、実はこの名庭がつくられた背景には誰もが知る歴史上の人物の存在があった。古来、延喜式内社という由緒格式のあった多賀大社は、庶民の信仰を集めていただけでなく、公家や武家の信仰も篤かった。そのひとりに、天下人となっていたあの豊臣秀吉がいた。

奥書院東側の庭。

奥書院東側の庭。

 多賀大社の社伝によると、秀吉は多賀大社に母大政所の病気治癒を祈願し、大政所の延命がなったため、そのお礼として天正16年(1588年)に1万石を寄進したとされる。1万石というのは大名の石高に相当するほどの莫大な価値があり、それをもとに奥書院庭園は作庭されたという。多賀大社の大鳥居をくぐったところにある石造りの太鼓橋もそのころ造営されたもので、秀吉との関わりから太閤橋とも呼ばれる。その事実を示すように、奥書院への通路には、当時秀吉から多賀大社へ送られた祈願文が掲げられている。
 そんな由縁をもつ庭を眺めるとともにぜひ目を配りたいのが、絢爛豪華な奥書院の襖絵だ。唐獅子や富士山と鶴が描かれた図柄のほか、金箔のきらびやかさに彩られた数々の襖絵は、室町時代から江戸時代にかけて一世を風靡した狩野派の筆によるものと考えられている。襖絵は、もともと多賀大社の別当寺(神宮寺)であった天台宗不動院の大書院にあったもので、安永2年(1773年)の大火で大書院が焼失した際にも持ち出されて無事だった。

白牡丹と唐獅子など、いかにも狩野派らしい作風の奥書院襖絵。

白牡丹と唐獅子など、いかにも狩野派らしい作風の奥書院襖絵。

 かつて神道は神仏習合によって仏教と融合し、多賀大社境内にも寺院が建立されていた。明治時代に入り、廃仏毀釈によって神道と仏教の分離が行われ、多くの神社では境内から仏教的要素が排除された。いまも残る江戸時代中期に建てられた奥書院は不動院の一部だった建物で、何度も火災などの災難に見舞われた多賀大社にある建物のなかではもっとも古い建造物だ。奥書院は県の有形文化財に、また襖絵は多賀町の文化財に指定されている。
 奥書院から眺める庭園は、その格調高い趣と相まって、観るものを贅沢な心持ちにさせてくれる。多賀大社を訪れてこの美庭を拝観しないで立ち去るのは、あまりにもったいない話だろう。
(取材日:平成22年8月)

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