芸術再発見

ピアノ奏者・椿佳美さん

ピアノ奏者・椿佳美さん

~平成23年度滋賀県文化奨励賞受賞者に聞く~ 

平成23年度の滋賀県文化奨励賞を受賞した椿佳美さん。

 椿佳美さんは数々のリサイタルのかたわら、著名オーケストラとの共演など、国内、国外問わず幅広く活躍するピアノ奏者。
 大学在学中にショパン国際コンクールの覇者スタニスラフ・ブーニンの演奏をきっかけに、ショパンの音楽に引き込まれていく。卒業後はポーランドのワルシャワ、フランスのパリとおよそ7年の留学を通して、ショパンの辿った道筋を椿さん自身も経験する。ワルシャワを訪れてから20年、ショパンの曲を弾き続けてきた椿さんの思いは強い。今取り組んでいるのはショパンのピアノ作品全曲を演奏するプロジェクト。ショパン生誕200年を記念したもので2010年から2013年まで全8回の予定で行われている。

ピアノを弾いているときは心の中にポーランドでの思い出や風景が思い浮かんでくるという。

 自宅で母親がピアノ教室を開いていたこともあり、毎日のようにピアノの音を耳にする環境で育った椿さん。ピアノを始めたのは4歳のころ、母親の手ほどきを受けて音楽の世界へと入っていく。小学校ではピアノが弾きたくて早く家に帰りたいと思うほどピアノが大好きだったという。
 椿さんが小学校5年生のとき、第30回全日本学生音楽コンクール大阪(西日本)大会ピアノ部門小学校の部に出場。そこで1位入賞という結果を出す。当時はピアノを弾くことが楽しいという思いはあったが、特にコンクールでいい結果を残したいという意識はなかったという。
 中学校までは地元滋賀県で学んだが、高校からはより専門的にピアノを学ぶため東京藝術大学音楽学部附属音楽高校に入学。大学は東京藝術大学音楽学部器楽科へ進学と、更に音楽の世界へと進んでいく。しかし、「大学時代は、コンクールや試験ではいつも1番や2番の人が決まっていて、挫折しそうになった」と当時の心境を語る椿さん。いい結果が残せず弱気になっていたという。そんなとき椿さんにとっての大きな転機が訪れることになる。日本のクラシックファンの裾野を広げたといわれるブーニン・フィーバーだ。
 当時わずか19歳でショパン国際ピアノコンクールに優勝したスタニスラフ・ブーニン。彼の活躍は日本でも注目され、ブームが巻き起こった。椿さんも巻き起こるブームの中でショパンの音楽の魅力に引き込まれていった。新たな魅力を見つけた椿さん、卒業後はポーランドのワルシャワ・ショパン音楽院に留学することを決める。

ウクライナのキエフで開かれたコンサート。オーケストラとの共演など活躍の場は多い。

 「留学生活の中でまず感じたことはポーランドの人々がショパンを尊敬していること。また生活の中にショパンの音楽が取り入れられていることです」と、当時を振り返る。ポーランドではニュース番組のオープニングでショパンの音楽の一節が使われるなど生活の中に溶け込んでいる。また大きなコンサートだけでなく、ショパンの曲がテーマとなる演奏会が各地で行われるなど人々にとって身近な音楽となっているそうだ。椿さん自身も大学院で学びながらいくつもの演奏会に出演したという。
 作曲のほとんどをピアノ独奏曲が占め、「ピアノの詩人」とも形容されるショパン。そのショパン母国であるポーランドでピアノを学んだことは椿さんにとって大切なものとなっている。

 ポーランドには5年ほど滞在し、その間は各地で演奏活動を行った。数多くのリサイタルや、いくつかの交響楽団との共演など、一部はテレビ中継もされ好評を博した。1991年にはチッタ・ディ・トラーニ国際ピアノコンクール(イタリア)第4位入賞。また1992年には、ポーランド国立放送交響楽団(カトヴィツェ)とショパンのピアノ協奏曲第1番ほかをCDに収録した。1995年からはパリに移り、演奏活動を展開していく。1996年10月にはエコル・ノルマル学院に入学し、さらなる研鑽をつむことになる。1997年にはミウオシュ・マギン国際ピアノコンクールで3位に入賞。同年11月には大津市文化奨励賞を受賞した。

「一度弾いた曲も、年齢を重ねればまた変化してくる。そのときの気持ちを音楽にのせて伝えていきたい」

椿さんの演奏

 留学生活を送っていたときは、自分がポーランド人になったようだったと話す椿さん。日本に帰ってくると色々なことで戸惑いがあったが、現在では大津、京都、大阪、神戸など関西を中心にリサイタルを行うとともに、国外では、ポーランド、フランスのみならず、ブルガリア、ロシア、ウクライナなどでも、オーケストラとの共演やリサイタルと幅広く活動している。
 現在は、相愛大学音楽学部の非常勤講師を務め、学生の指導にもあたる。「今は小学生のころからコンクールがたくさんあるが、例えそこで失敗してもめげずに頑張ってほしい。」小さいころからピアノが大好きだった椿さん。今もこの気持ちを大切にしている。

<プロフィール>
滋賀県大津市に生まれる。
東京芸術大学音楽学部附属音楽高校を経て、1988年同学 部器楽科ピアノ専攻卒業。89年よりワルシャワ・ショパン音楽院に留学。91年チッタ・ディ・トラーニ国際ピアノコンクール(イタリア)第4位入賞。92 年ポーランド国立放送交響楽団(カトヴィツェ)とショパンのピアノ協奏曲第1番ほかをCDに録音。95年よりパリに移り演奏活動を展開。96年エコル・ノルマル音楽院に入学。97年ミウオシュ・マギン国際ピアノコンクール(パリ)第3位入賞。同年大津市文化奨励賞受賞。 2011年滋賀県文化奨励賞受賞

元濱綏子、芝令子、松浦豊明、辛島輝治、M.シュピナルスカ、
K.ギェルジョード、M.マギン、M.リビツキーの各氏に師事。

現在、相愛大学音楽学部非常勤講師。
2010年より、ショパン生誕200年記念企画「椿佳美ショパン・ピアノ作品全曲演奏シリーズ」に取り組む。

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