芸術再発見

油彩画・伊庭靖子さん

油彩画・伊庭靖子さん

~平成23年度文化奨励賞受賞者に聞く~

京都のアトリエで創作活動に取組む伊庭靖子さん。

 平成12年より成安造形大学の教員として学生の指導にあたり、京都のアトリエを中心に創作活動を行う伊庭靖子さん。平成23年度滋賀県文化奨励賞を受賞した。「京都生まれの京都育ちだが、滋賀県でこのような賞をもらえたことはすごく嬉しい」と話す。多数の展覧会への出展のほか、滋賀県立近代美術館をはじめ、多くの美術館に作品が収蔵されるなど今後の活躍が期待されている作家の1人だ。

祖母と出かけてはスケッチブックに花の絵を描くなど、子供のころから絵を描くことが好きだったという。

 伊庭さんの作品はフルーツや陶器、寝具をモチーフに描かれる。一見写真と見間違うような作品だが、「ハイパーリアリズム」や「フォトリズム」といわれる単に写真のような絵とはどこか違う。身近なモチーフから得た「感覚的」なものがそこに表現されているからだろうか。白いクッションを見れば、フワフワな柔らかさを目で感じ、陶器を見れば、丸みをおびた中にある陶器の硬さや、輝きを感じるなど、作品に触れた人の五感に訴えかけてくるような作品を描く。
 1967年京都で生まれた伊庭さん。小さなころから絵を描くことが好きで、本格的に絵を学ぼうと思ったのは高校3年生のとき。父や祖父が油絵の画家であったことや周囲も絵を描く人が多かったことから、やはり絵を学びたいと嵯峨美術短期大学に進学した。しかし子どものころに触れた油絵にどこか「重さ」を感じていたといい、大学では油絵ではなく版画を専攻する。大学卒業後は助手として働きながら創作活動を開始したが、その3年後、版画での作品作づくりがどこか技法に縛られているばかりで次のステップに進めていないと感じたという。
 そこで始めたのが大学で選択しなかった油絵だった。まったくの独学で描き出した油絵であったが、1年ほど創作に取り組み、版画作品と油絵の作品で個展を開いている。「今思うと絵に質感を求めていたのだと思う」。鑑賞に訪れた人の言葉に教えられて自分が描きたいものに気付いたと振り返る伊庭さん。その後は油絵に集中して作品を描いていく。伊庭さんの油絵の描き方は独特で、 絵を描く際にイメージを探るための「ドローイング」という行程を、モチーフとなるものを写真に撮ることで行っている。

神奈川県立美術館所蔵:『untitled』oil painting 160×160cm. 2009-02.撮影者:加藤成文

 最初は植物を描いていたが、とくに植物を描きたかったわけではなく、写真に現れたピントの境目などの写真らしい質を描きたかったという。植物の後は、シャツの襟元などをモチーフにしていった。さらに身の回りの物や果物などを描いていくことになるのだが、描く焦点がどんどんと対象に近づいていく。 しかし、モチーフの一部を虫眼鏡で見るように、拡大したその一部分に焦点を当てて描くことが、「何をモチーフにした作品なのか」を当てるクイズのように鑑賞される要素となったと振り返る。「おもしろいもの・興味深いものとしてみてほしい」という思いがあった伊庭さんは自分の作品を鑑賞してもらうために何か邪魔になるものがあると考え、作品と集中して向き合うためにニューヨークに研修に行くことになる。

 1年の研修期間を経て結局描き方をかえることはできなかったが、ここから作品のモチーフとなるものに『白』が選ばれるようになる。ソファーやクッションといった寝具をモチーフに、やわらかい質感を描いていく。さらには陶器のように硬いものの質感をも描いていくようになった。近年の作品ではこれらの作品を多く見ることができる。

大津びわ湖合同庁舎1階に展示されている伊庭さんの作品。彦根の「湖東焼」をモチーフに描かれている。

 京都のアトリエで作品に向かってきた伊庭さんは大学への通勤などで滋賀の景色をよく見てきたという。「京都から滋賀県に行くとき、山を越えていくが、ぱっと空が開けて山に囲まれた湖が目に飛び込んでくる。光、風、さらには色を感じさせてくれる景色が広がっている。様々な自然の景色を見せてくれる滋賀県はアーティストにとって感覚を広げてくれる場所だと思う」。
 今は教員として学生の指導を受け持つが、それが自分にとっての刺激にもなっているという。伊庭さんの作品は、ほぼ5年ごとに新しいステップを踏んできた。その中で今、また新たな挑戦をしている。「うまくいくかどうかわからないが新たな段階をふみたい」と高い意欲を見せる。

プロフィール
1967 京都市に生まれる
1990 嵯峨美術短期大学版画科専攻科修了
1999 ダイムラークライスラーグループアート・スコープ’99 
      フランス・モンフランカンにて制作滞在
2001~02 文化庁在外研修員としてニューヨークに一年間滞在
     現在 成安造形大学 洋画クラス准教授

近年の受賞記録
2010 第20回タカシマヤ美術賞
2011 滋賀県文化賞 奨励賞受賞

個展
2009 京都・imura art gallery
      神奈川・神奈川県立近代美術館 鎌倉館
2010 東京・MA2 Gallery

グループ展
2009   DOMANI・明日展2009(東京・国立新美術館)
      椿会展2009(東京・資生堂ギャラリー)
2010   呼吸する視点 -伊庭靖子とその研究生たちによるグループ展
                    (滋賀・近江八幡市立かわらミュージアム)
      つくりかたから見る美術−コレクション徹底解剖!−(群馬県立館林美術館)
      「第29 回損保ジャパン美術財団選抜奨励展」(東京・損保ジャパン東郷青児美術館)
      椿会展2010(東京・資生堂ギャラリー)
2011   トリック&ユーモア展 描かれた不思議(神奈川・横須賀美術館)
      げんだいびじゅつをのぞいてみませんか(静岡・資生堂アートハウス)
      「Art in an Office —印象派・近代日本画から現代絵画まで」展(愛知・豊田市美術館)

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