芸術再発見

ダンサー・振付家 北村成美さん

ダンサー・振付家 北村成美さん

~平成22年滋賀県文化奨励賞受賞者に聞く~ 

「自分の体が持っている可能性を知るためには、常に動かし続けないとだめなんです」

「自分の体が持っている可能性を知るためには、常に動かし続けないとだめなんです」

「コンテンポラリーダンス」と呼ばれるダンスのジャンルがある。定まった形式を持たず、身体を自由に動かして表現を行う独創的な舞踊のことだ。平成22年、滋賀県文化奨励賞を受賞された北村成美さんは、国内外で精力的に活動を展開し、滋賀県内でも活発に公演やワークショップなどを行っている。コンテンポラリーダンスを始めた経緯や滋賀での活動、子育て中の母親としての想いなどを、北村さんに語っていただいた。
 大阪で生まれ育った北村さんは、テレビで見るアイドルにあこがれ、6歳でバレエを習い始めた。アイドルのようにみんなの前で歌って踊りたい、そんな夢を実現するためにバレエに熱中した。しかし、次第にバレエの主役よりは悪役や笑いをとる脇役におもしろさを感じるようになっていく。「悪役や脇役の踊りの方が、私は楽しいと感じたんです。けれども悪役が『主役』のバレエは存在しません。そこで、自分なりのダンスを考えて踊るようになったんです。そして高校卒業と同時に、コンテンポラリーダンスに出合いました」。型にとらわれない北村さんの原点はすでに10代の頃から芽吹いていたのだ。アルバイトで費用を稼ぎ、平成3年、20歳のときに渡英。コンテンポラリーダンスと振付を学ぶため、世界中から学生が集まるダンスの教育機関「ロンドン・ラバン・センター」へ入学した。

「日本一のおかんダンサーになって、おかん世代の希望の星になりたい」と、抱負を語る北村さん。

「日本一のおかんダンサーになって、おかん世代の希望の星になりたい」と、抱負を語る北村さん。

「平成5年に帰国し、ダンサー・振付家として活動をはじめました。最初はグループを主宰していたんですが、借金を抱えて解散。平成12年からソロ活動を始め、転機となったのが、平成13年のびわ湖ホール夏のフェスティバル『ダンスピクニック』でした。人間が生々しく生きる姿そのものをダンスにぶつけました。そこで誕生したのが架空アイドル“夏びわ子”というキャラクターでした。びわ湖ホールの外の芝生で、炎天下、ホースで水をまきながら水着姿で踊りました。ダンサーにとっては非常に過酷な作品だったんですが、ダンスを通じて私自身が観客とひとつになっていく感覚を得ました。本当に大きな喜び、快感でしたね」その後、“夏びわ子”はシリーズ化され、海外でも人気を博した。
 これをきっかけに滋賀や関西のみならず国内外でも活躍し、次第に評価を高めていった北村さん。平成14年に「第1回TORII AWARD」フランス賞、オーディエンス賞を受賞。平成16年、大阪舞台芸術新人賞を受賞するに至る。結婚を機に平成18年、滋賀へ移住。滋賀で出産・育児を経験する中で、「滋賀発のダンスを」という思いがわいた。平成19年からは『さきらダンス道場』と称し、滋賀県で本気でダンスに取り組める場も設けた。
「滋賀県での生活や活動、さらに障がいを持つ方たちとの共同制作などを通じて、日々精進させていただいていると感じます」と北村さん。人間としての成長無くして、踊り手としての成長は無いと語る。「生きる喜びと痛みを謳歌するたくましいダンス」をモットーに、ダイナミックな舞台づくりを手がける北村さんらしい考え方だ。

まるで自分の体に何かを問いかけるかのように全身を動かす。

まるで自分の体に何かを問いかけるかのように全身を動かす。

「ダンスの創作には大都市よりも地方が向いています」と北村さん。一度もコンテンポラリーダンスを見たことのないお客さんに本当に楽しんでもらうために、切磋琢磨し創意工夫し続けるという、厳しい環境がダンスには大切だというのだ。さらに「滋賀で生まれたダンスを大阪や東京に届けたい」との気持ちも強い。稽古場や劇場などの設備に恵まれているのと同時に、交通の便がよく、大都市圏ともつながっている滋賀は、北村さんの活動には最適な場所なのだ。
 子育てという点でも滋賀は恵まれている。しかし、それでも子育てに関わる問題も多いと北村さんはいう。例えば、子育ての孤独。北村さん自身も、産休・育休で一日中子どもの世話に追われていた頃に、世の中から取り残されるような感覚を経験したという。そんな人たちにこそ、ダンスを観たり体験してもらいたいという。コンテンポラリーダンスには、その人にしか出来ない表現や創造力を駆り立ててくれる要素があるからだ。
 平成21年にはびわ湖ホールにて、小学生20名による作品『くるみ割り(風)人形と二十日(ぐらい)ねずみの戦争☆キャー!!』を制作・発表。子どもたちの真摯な身体で、戦争の悲惨な情景を舞台いっぱいに描いた。「私自身が子育てを経験しているからこそ、このような企画をさせてもらえるようになったと思っています。すべての出会いや経験が私のダンスの血肉になっています。ダンスは、日々成長し続ける人間の身体を相手にしているので、一生かかって学び、取り組めるものです。歳をとったら若い頃と比べて運動能力は落ちると思われていますが、実はその逆で、さまざまな経験が動きのボキャブラリーを広げ、若い頃には得られない深みが出るようになります。だからいつも真剣勝負。どこへ行っても、誰とでも、1対1の向かい合いから始めるのです」

北村成美

(プロフィール)

昭和46年、大阪府生まれ。草津市在住。
平成3年に渡英。「ロンドン・ラバン・センター」にてコンテンポラリーダンス、振付を学ぶ。
平成5年、関西を拠点に振付家・ダンサーとして活動をはじめる。
平成12年ソロ活動を開始。
平成14年「第1回TORII AWARD」フランス賞、オーディエンス賞を受賞。
平成16年、大阪舞台芸術新人賞を受賞。
平成20年には「トヨタコレオグラフィーアワード2008」ファイナリストに選ばれる。
平成22年、滋賀県文化奨励賞受賞

国内外で活躍するとともに、家庭の居間で踊る「ダンスアットホーム」や一週間ひとりで踊り続ける「ダンスマラソン」など精力的な活動を行う。全国の小中学校、公共文化ホール等での体験型講座にも積極的に取り組み、近年はびわ湖ホール、栗東芸術文化会館さきらなどでの公演やワークショップなど県内でも活発な活動を行っている。現在、(財)地域創造ダンス活性化支援事業登録アーティスト、滋賀県社会福祉事業団身体表現ワークショップナビゲータを務める。これまで北村作品に出演した、子どもから壮年まで21名の有志とともに「草津ダンス道場」を設立。ダンサーやワークショップリーダーを輩出している。
(取材日:平成22年12月2日)

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