諸々 再発見

畑の棚田・高島市畑

畑の棚田・高島市畑

基本情報
名称 畑の棚田
URL
文化財指定等 農林水産省選定「日本の棚田百選」
所在地 高島市畑
電話番号
営業時間
定休日等
料金
※平成22年9月現在

 ~人と自然が一体となった美の風景~

畑の集落にはトタン張りとはいえ、茅葺きの家がいくつも残っている

畑の集落にはトタン張りとはいえ、茅葺きの家がいくつも残っている

 JR湖西線近江高島駅から県道296号線を車でゆくこと約20分。黒谷地区を過ぎて狭い谷間を抜けると、そこには昔懐かしいたたずまいの家々とともに山の中腹から谷底にかけて階段状に連なった美しい棚田風景が広がっていた。平成11年に「日本の棚田百選」(農林水産省選定)に滋賀県内で唯一選ばれた「畑の棚田」だ。かつては日本全国でふつうに見られた風景も、農作業の機械化を進めるための土地改良や少子高齢化による山間部農業の衰退で、自然な曲線を伴った棚田の多くは消えていった。

棚田の水面に映る雲

棚田の水面に映る雲

「畑の棚田」は、人と自然が長い年月をかけてともにつむぎだしてきた棚田が、幸いにしてそのままの姿で残っている貴重な例といえる。
 高島市畑(はた)の集落にある棚田を訪れたのは5月の半ば。畑の棚田は、高島の中心部から車で20分ほど山あいに入ったところにある。ちょうど田植え時期ということもあり、美しい畦の曲線が幾重にも重なる棚田には清らかな沢水が張られ、真っ白い雲と青い空が水面に映りこんでいた。標高300~400m、標高差約100mにわたり、約360枚、広さ15haほどの田が階段状に連なっている。棚田とともに茅葺きにトタンを張った昔ながらの家や土蔵のある風景を見ると、なぜか懐しさがこみ上げてきて、何とも言いがたい安らぎを覚える。田植えが終わったばかりの田からは、清流があるところにしか棲まないカジカガエルの心地よい声が聞こえてくる。それはもちろん、棚田の田に引き込まれる水が山から染み出す沢水だからだ。この風景を見れば、さすがは滋賀県で唯一、「棚田百選」に選ばれた場所だと素直に感動することだろう。このところ注目されつつあるスポットということもあって、京都や大阪ナンバーの車でやってきた、団塊退職組と思わしき夫婦が一眼レフをもって集落内を歩く姿もちらほら見られた。

昔懐かしい農村風景

昔懐かしい農村風景

 この素晴らしき風景、「畑の棚田」も、日本各地にある棚田の例にもれなく後継者不足の問題を抱えている。現在、棚田を守る畑の集落の農家戸数は40戸に満たない。その上、若者たちの多くは仕事のために町へと流れ、残されたお年寄りたちが必死に先祖伝来の田を守っている。棚田1枚当たりの面積は3~4aと小さく、小規模ゆえに棚田では手作業の仕事が多くなり、お年寄りたちだけでこの棚田を守ることは至難の技ともいえる。棚田百選に選ばれて注目を浴びるようになって以降、2000年からは「畑の棚田を守ろう会」が発足、都会から「棚田オーナー」や「棚田保全ボランティア」を募って棚田を未来に引き継いでいこうという活動が行われている。ただ、実際に訪れてみると、耕作放棄されたような田や休耕田となっている田がいくつか見られた。

見とれてしまうほどの畦の美しい曲線

見とれてしまうほどの畦の美しい曲線

 畦がうねる棚田は、米の生産性という観点からすれば非効率的かもしれない。けれども、その分、人と自然がともに織り成してきたやさしい美しさがある。美しいものというのは、概して非効率的なものの積み重ねであることが多い。「便利と経済性」のみの価値がすべて覆い尽くすと、美しいものは余分なものとして消されていくことになりかねない。
 静まりかえった夕暮れどきの畑の集落。夕陽にきらめく棚田の水面を眺めながら、そんなたわいもないことを思い巡らしていた。この美しい棚田が、未来永劫、人々の暮らしとともに次の世代に引き継がれていくことを心から願っている。
(取材日:平成22年5月)

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